
の脳波平均パワーの頭皮上トポグラフィーの時間的変化を、図2.2.3−16に示す。図の上方が頭の前方を表し、3列の左からθ波、α波、β波の順に並んでいる。動揺暴露前の閉眼安静、開眼安静、動揺暴露中(5分間隔)、動揺暴露終了後の開眼安静、閉眼安静の順に示してある。また、濃い赤の領域は脳波の平均パワーのレベルが高く、青の濃い領域は平均パワーレベルが低いことを表す。
図より、α波に関しては、一般に閉眼安静時に後頭部に強く現れ、開眼によって弱まり、動揺暴露開始後は平均パワーの強い領域およびその強さが時間の経過とともに変化することが分かる。しかし、酔いの発症者、非発症者間の顕著な差は認められず、乗り物酔いの発症との明確な関連を見い出すまでには至らなかった。これに対して、気分が良くなったと答えた被験者の例は特徴的で、動揺暴露開始から間もなく頭頂部から後頭部にかけてα波が強く現れることがある。
β波に関しても、乗り物酔いとの関連は明らかにならなかったが、一般に、実験直前にはその平均パワーは頭部全体で低く、動揺暴露中は強さに変化があるが、乗り物酔いを発症した場合の方が、その変化が大きいようである。
θ波に関しては、前頭部にパワーの強い領域の現れることがあるが、瞬きの影響などが混入している可能性があるので、結果の信頼度はあまり高くないと考える。
図2.2.3.17に、頭皮上全体に積分された平均パワーの時間的変化の例を示す。図中、横軸は時間の経過を表し、閉眼安静(Sc)、開眼安静(So)、動揺開始直後(O)、1−6は動揺開始後5秒毎、また、実験終了時の開眼安静(Eo)、門限安静(Ec)である。縦軸は平均パワーを表すが、動揺開始直前の開眼安静状態の平均パワーを用いて正規化してある。●印は、α波パワーの変化を、▲印はβ波パワーの変化を表す。マッピングの結果からは、酔いの発症過程で平均パワーの高い領域の変化が認められるものの、全体のパワーに関しては、乗り物酔いの発症との関連は明確ではない。しかし、変化の大まかな様子はいくつかのパターンに分けられる可能性のあること、乗り物酔いを発症した被験者のα波、β波の平均パワーの回復は乗り物酔いを発症しなかった被験者のそれに比べて遅い可能性のあることなどが窺える。
脳波の平均パワー分布およびその時間的変化から動揺刺激を受けた被験者の脳波の分布は変化することが分かった。そこで、その分布の中心が時間的に如何なる変化をするかを調べた、図223−17に示されるα波、β波の平均パワー分布からその中心(図心)を求めた。図2.2.3−18に、頭皮上平均パワーの中心位置の時間的変化の例を示す。頭骸を直径1の円で表し、この円内の軌跡が描かれている。
図より、閉眼安静時のα波の中心は後頭部に近く、開眼と同時に前方に移動して、動揺暴露中は酔い発症の有無に関わらず比較的大きく位置が変化する。しかし、酔いの発症との関連を見いだすのは困難である。β波に関しても、閉眼安静時にはその平均パワーの中心は、少し後頭部に近く、やはり、時間の経過とともにかなり大きくその位置が変化することが明らかである。
一方、脳活動電位の時間的な変化を頭皮上全体で調べるために、α波の1周期分に相当する時間内(約100秒)の脳波記録を10msec間隔でサンプリングし、瞬時の活動電位のマッピングを行って、頭皮上の活動電位の分布の時間的変化の様子を調べた。即ち、後頭部の電極O1からの活動電位信号の負のピーク(谷)、(または正のピーク(山))を時間の起点にとり、140msec(または100msec)間の活動電位の空間的変化の様子を調べた。マッピングの結果を図2.2.3−19に示す。図中、赤い部分の活動電位は十側に高く、青色の部分の活動電位は一側に低いことを表す。
この図からも、脳の活動は時々刻々変化していることが分かる。心理状態の変化を司る大脳皮質からの情報であるから、今後更に詳しく調べる必要がある。
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